TADFの創出者となる安達千波矢先生を訪問

2010年、NatureにTADF(Thermally Activated Delayed Fluorescence、熱活性化遅延蛍光)関連論文が初めて掲載された九州大学の安達研究室を訪ねた。安達先生は教授というより大学院生のような素朴な第一印象だった。

安達先生がTADF材料に対して情熱を持っている理由は、OLEDパネルの製造にかかるコストを下げられる最適な材料だと確信しているからだ。現在、使われている発光材料には、蛍光材料である第1世代材料とりん光材料である第2世代材料がある。第1世代の蛍光材料は価格が安いものの効率は悪く、第2世代のりん光材料は効率は高いものの価格が高いという欠点がある。その理由は希土類のイリジウムを使うからだ。安達先生がリードしている第3世代の発光材料であるTADFには、第1世代材料の構造に第2世代材料の効率が出せるという利点がある。

 

理論的にはTADF材料は内部効率を100%達成し、分子設計の自由度が高いという特徴を持つ。即ち棒状の分子設計が可能で、配向性のある材料を製造することができるため、外部への光取り出し効率を40%まで向上することができる。

 

安達先生はTADF材料の実用化について、Galaxy用OLED材料としてはまだ特性が完成していないが、比較的に低スペック向けには来年から採用できると述べた。特に緑色ドーパントや赤色のドーパントが導入できると予想した。しかし、ディスプレイに採用できるTADFに完成するためには、必ずT1とS1のバンドギャップを縮め、電子移動速度を上げるべきだと強調した。電子移動速度について、現在は1μsec程度だが、10-1~10-2μsecまで速まると分子劣化が少なくなり、寿命を確保することができると説明した。また、TADFドーパントの効率を十分に発揮する専用のホスト材料がないということはTADF材料の開発に支障をきたすことになるため、発光材料メーカーによる積極的な参加が求められていると付け加えた。

安達先生は最近、ドイツジャーナルであるAngewandte Chemieに色度図が(0.148, 0.098)で、外部への光取り出し効率が19.2%以上になる‘Deep-Blue TADF’論文を発表した。